monomadoのブログ

本を買う話とか、読んだ本の話とか。あと時々、旅行の話を。

難解な本を読む技術

難解な本を読む技術 (光文社新書)

難解な本を読む技術 (光文社新書)


図書館で借りて読んだ。
そういえば図書館にいったのも久しぶりではあった。

『難解な本を読む技術』は、タイトルそのままなのだが、よく難解といわれる哲学書、思想書をどのようにアプローチしていけば、理解することができるのかが書かれている。

あれは難解である、チンプンカンプンである、といわれると物怖じするだろうか、チャンレンジしたくなるだろうか。僕は後者で難解といわれると、俺ならスラスラわかるんじゃねえかと勝手にかいかぶって、挑戦して蹴散らされる。
いったい難解書というものは、どうやったらわかるんだろうか?ということを紐解いて、方法論を教えてくれる本。

まず、難解であることはなぜかというには、いくつか理由があるが、考え方としては、対象となる難解な本がどういった性質のものであるかを見極めてアプローチすることが重要とされている。分類としては以下。

 ・「開いている本」と「閉じている本」
 ・「ハイキング型」と「登山型」

一つずつ整理すると、

「開いている本」は、外部参照を必要とする本。例としてはデリダの著作などがあげられる。これらは、その本単品ではそもそも理解が困難な著作である。初学者にとっては、前提知識も、もとめられる外部参照の知識がまったくない状態で読み始めるために、理解できないものとなる。
こういった本へのアプローチは、当然、都度、外部参照を押えていくことによって理解を深めていくことができるし、逆に言えば、それなしには理解は困難となる。
(とはいえ、おびただしい脚注で本単体で理解できるような工夫もあるにはある)

「閉じている本」は、その本単体で理解が可能とされる本。例として、スピノザの『エチカ』、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』などがあげられるだろうか。これは外部参照を必要としないかわりに、内部で築き上げられていくロジックを丁寧に追わないと理解できないものとなる。ロジックを丁寧に追うのは、後でいう「登山型」の読書が必要ということになっていくことだろう。

「ハイキング型」は、論の流れを追う必要があるが、作りとしてロジックを積み上げるようではなく、高みの風景をみさせる、体感するようなハイキングにたとえられる類の書物。ドゥルーズの『襞』はいきなり崖のぼりからはじまる、と本書では評されていたが、「登山型」が1から積み上げれば入っていけるのに対して、ハイキング型は、その対象の本の難易度に応じて、読み手の度量が必要になるともされている。

「登山型」は、一から論を追っていかないと着いていけない本。これは景色が開ける瞬間までは、けっこう退屈で挫折しそうになるのも登山らしいところ。


これらのパターンにわけた上で、どういったアプローチがよいかが書かれている。

アプローチの方法は、大きく二つあり、「同化読み」と「批判読み」が書かれている。
パターンのつながりは、以下のように整理できる。
(もちろん難解本なので、下のパターンの変則も当然ある)

 「開いている本」 ― 「ハイキング型」 ― 「同化読み」

 「閉じている本」 ― 「登山型」 ― 「批判読み」

ということになるでしょう。


要約はこの程度にして、感想と評価。

 こういったアプローチを定式化してくれることは非常にありがたい。文型の研究者になろうとするものは、こういったことを経験からわかっていくものであったり、あるいは教授、先輩から教えてもらったりするものかもしれないが、いずれも伝統と口承の世界で、あいまいなところがあったり、一部偏った考え方があったりもするので、こういった定式化は必要なことだと思う。
 また、初学者にとっては、何をどうすればいいのかわからない時に、てっとりばやくやり方を教えてくれるものとしてすばらしいと思う。私は、そもそも先輩、教授からあまり教えてもらうことが少なく、自己流で上記のような難解書のアプローチを考えていたものだったが、上記に整然と整理されたスタイルを確立するほど明確なルールもなく、効率の悪いことをしていたように思うので、もっと早く(せめて大学にいる間に)読みたかったものだと思う。

 本書は、方法論篇のあと、実践篇としていくつかの類型に該当する哲学書をとりあげて、具体的にどうアプローチすればいいのか載っているのもうれしいところ。ただし、哲学書、思想書のアプローチについては、上記の方法論はよいかもしれないけど、他のジャンルでも通用するのかは試してみないとわからないとも思う。概ね、「登山型」になるのではと思っている。
 また、文型の読書、研究の方法論の本としては、「登山型」の研究、読書法が多くを占めてきたのに対し(梅棹忠夫の『知的生産の技術』の京大カードの方法論など)、「ハイキング型」というジャンルと、その読み方が、提唱されていることが本書の新しさだと思う。

 読んでためになると思う本。自分は、「登山型」読書を苦手としているので、そちらも食わず嫌いしないで勉強しないとね。