monomadoのブログ

本を買う話とか、読んだ本の話とか。あと時々、旅行の話を。

伊藤計劃

ずっと、『虐殺器官』の文庫が気になっていた。その装丁は確かにかっこよかった。何度か手にとってみて、おもしろそうとも、軍事的な、政治的なやりとりが続くのを重たく感じて、また、SFとしての非現実の仕組み、科学、兵器を拾い読みでは、いまいちなじめなく、陳腐なイメージに感じてしまって、敬遠していた。

でも、買ってみた。それはただジュンク堂でピンクレシートを集めてグッズがもらえるフェアーをやっていたから、というのが理由かもしれない。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

とても面白くて、結局昼過ぎに買って帰ってきて、夜には読み終えていた。
拾い読みではいまいちリアリティを感じることのできなかった、舞台の小道具、世界観を支える思想も、よく説明されていて、読み出すとおもしろいおもしろいと読み込んでしまう。文章で書かれる戦闘シーンもうまく書かれているのか、とても臨場感を感じた。

それから、伊藤計劃について、調べてみると、もう亡くなっている方であることを知った。これだけ面白いものを書いているのに、という感はあるけど、神に愛でられしものは夭逝ということなのだろうか。
こういう話を読んでしまうと、作品に対して、素直に見れなくなるところはある。でも、そういうのを差し引いても面白い作品は面白い。

少し追いかけてみようかと、続いて『メタルギアソリッド ガンズ オブ パトリオット』を読む。

メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)

よく知られたゲームのノベライズということだけど、僕はゲームはやったことがなく、人がプレイしているのを後ろから見ていた程度。あまり過去作品の知識もなく読んだけど、これまた面白かった。
過去作品の話も丁寧に回収されながら、メタルギアソリッドを知らない僕でも物語の世界観を楽しみながら読むことができた。

でなんとはなしに、ゲームも買ってしまい、やってみた。
あまりゲームは得意ではないのと、簡単がゲームが好きなのだけれど、面白い。ゲームをやって気づいたのは、この本がノベライズというかなり制約のある中で見せた工夫が光っているということに気づく。
語りの視点の変更。ゲームでは主要テーマになるビューティー&ビーストのカット。こういう工夫が成功しているところが、この本のいいところだなと思う。
やはりこの伊藤計劃さんという人は、こういうジャンルのマニアだったということもあって、ツボの抑え方がとても卒がないという印象を受けた。

引き続き、読み続けようと思って『ハーモニー』をジュンク堂に探しにいくが、見当たらない。Amazonでも品切れになっている。まずいなと主ながら、ジュンク堂で取り寄せを依頼する。
話はそれるけど、昔、紀伊国屋で働いていた姉が、店にない本がほしいと客に言われると「最長で2週間はかかります」と答えないといけないという話をしていた。そして2週間と言われると、大抵のお客さんは諦めてしまう、という話。
本の流通の世界は、これほどIT化が進んでいるにも関わらず、相変わらず「2週間」というのだろうかと思いながら、ジュンク堂の店員にたずねると、やはり出版社からの取り寄せまでになると2週間かかると言ってきた。進歩ないのか、とこの入り組んだ流通業界には、ぶっこわすべき課題があるのでは、と考えてみたりする。
仕事で、こういう注文とかのシステムを扱っていると、即日回答、当日内対応を目指す!みたいなお題目があったりするなか、他店舗、問屋、そして出版社までさかのぼると2週間にもなってしまうのかと思ってみたり、即日対応がすごいことなんだろうかと考えてみる。
神田の本屋さんで店の名前まで忘れたけど、それほど大きくない本屋だけど、ない本を尋ねると、取ってきますといって、即日中に問屋なり、出版社まで(?)取りに行って、驚くべきスピードで対応するのを売りにしている本屋の話を見たことがあるけど、それも、神田という立地のよさと、長年積み上げてきた人脈、コネの実力ということなのだろうと思ってみたりする。

で、2週間と思っていたけど、意外にも翌日には取りに来てくれと連絡が入った。意外にもすごいぞジュンク堂!と思ってしまう。

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

『ハーモニー』は帯にもベストSF1位と書かれているのに、そもそもなんでこれが品切れで放置されているのかよくわからんという感じ。いずれ文庫化するから、みたいな感じなのだろうか。

評判はともかく、読んだところは、密度としては『虐殺器官』のほうがあったかな、という印象。こう3冊読んでくると、小道具、世界観の驚きというのは薄れてきてしまうのを差し引いても、かなり似た世界観が続いているというのも事実。
同じものを求めて同じ作家を読むのか、同じ作家の出す別の側面を求めるのか、というと、欲張るなと怒られそうだけど、少し物足りない気はしないでもない。

少し面白いと思ったのは、本文の中にでてくる感情表現のためのタグ。
なんで!みたいなのがでてくる。物語の最後にこのタグの種明かしもあるけど、こういう表現を実験しているのも、現代的というか、ただただ物語を書いているだけでなく、新しい表現をということでは面白いとも思った。

それは、最初にHTMLとかXMLとかのタグ言語についての基本的な説明を読んだときに、文書にタグをつけて管理する。こうすれば、膨大なテキストを縦横に走り回れる!という説明を読んだときのわくわく感を、物書きの人が、おそらく感じ、そして物語の世界に取り込んだということへの共感がある。

ひとまず、ハーモニーまで読んだ。ほかの作品も読んでみたいとも思うがほかはもうない。でもこの3冊でずいぶんと久しぶりに読んでとまらないという経験ができたので、大変よかったと思う。

あとは、ゲームもやりきらないといけなくなったのだけど、最後のところで、限界を感じつつもある。