ラカン サルトル デリダ ベンヤミン (ちくま学芸文庫)
ちくま学芸文庫から20世紀の知識人の入門書的な位置づけの本がでている。Writing and Reading社から出版されているシリーズの翻訳とで、すでに数冊翻訳がでているように思う。
だいぶ以前に「マクルーハン」を読んで以来、しばらく見向きもしていなかったが、近頃本屋にいくと平積みでならんでいたりするので、ついつい買ってしまう。
院生をしている自分は、こういったポップな入門書には、いまさら入門書ではなく、原典を読まなあかんやろ、という気分で手をだすのが憚られた時期もあったが、就職してのに、変な気負いの気持ちもなく、知識の整理と、別の専門知識で頭が硬くなっていくのを防ぐよい刺激として、好んで買うようになってきた。
このシリーズの特徴は、知識人(ラカン、サルトル、デリダ、、)の生涯(ややゴシップ的趣味な、伝説、逸話も豊富)と出版物の解説といった流れで構成され、豊富なイラスト、イメージでかなりライトな読み物となっているにも関らず、内容はけっこうしっかりしていて、きちんと整理された構成、かたよりも少ない解説で、読みごたえもある。
よく入門書といいながら、自分の研究と、自分の興味だけに偏って、書いているものがあったり、そもそも本当に入門書なのか?と思ってしまうくらいやたらに学術的なものであったりと入門書は、けっこう入門ではないものが多い中、これはとてもいい入門書だと思う。
巻末には、きちんとリファレンスやブックガイドも充実しており、翻訳では、訳者が付した日本の翻訳書、研究書についてのリストもついており、かなり教育的な価値も高いものとなっている。
そもそも、専門の世界には、良い入門書があってしかるべきにも関らず、日本の大学の先生は教育にほとんど興味がないのと、自分でそんなもの身に着けるために努力するもんだみたいな風潮があるので、なかなかいい入門書、解説書がみあたらないように思う。分野の裾野が広がらないため、分野が偏狭になり、先細りしていくように思うのだが、だからといって誰も何もしないような状況ではないだろうか?
『ラカン』
- 作者: フィリップヒル,デビッドリーチ,Philip Hill,David Leach,新宮一成,村田智子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/02
- メディア: 文庫
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ラカンはわかりにくい。ラカンの基本的な理論が、例えば対象aとか、大文字の他者とかフロイト的な意識の図式をさらに拡張したような図式をもってなんとなく整理できるようではある。
例えば、象徴界、現実界、想像界という三つの分類は、象徴界、現実界はよくわかるのだが、想像界というのが、いまいちよくわからない。
これは、また別の機会にどこかで調べてみたいところ。
『サルトル』
- 作者: ドナルド・D.パルマー,Donald D. Palmer,沢田直
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2003/10
- メディア: 文庫
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サルトルはわかりやすいと思う。
だからよく読まれたのではないか、と思う。
『実存主義とは何か』という本はとてもやる気がでる本でいいと思う。基本的に、お前は自由だと言い聞かせられると元気がでる。
サルトルと現象学との接点として、「非反省的意識」という概念があるが、この概念を深堀し、サルトルの思想を整理して考えてみたいと思うが、おそらくそれに適したテキスト、論文はいくらでもあるんだろうけど、これはまた整理してみたいところ。
関係しそうなテキスト(思い込み)
『自我の超越』
『存在と無』
『想像力の問題』
研究書などはよくわからん。
『デリダ』
- 作者: ジェフコリンズ,ビルメイブリン,Jeff Collins,Bill Mayblin,鈴木圭介
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/06/10
- メディア: 文庫
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デリダの入門書というのは、けっこうたくさんあるように思うが、きちんと整理された入門書を読んだのはこれがはじめてではないかと思う。はじめてというのは、生涯と著作という意味で整理されて、わかりやすくまとめられているものという意味で。
すでにあるのは、
・著作中心の解説本
・概念の説明とか
←たいていの場合、この手の本は、実は研究書であったり、
デリダを読むのとそれほどかわらないくらい難しかったり。
はならか簡単に理解することができない、難解な哲学者デリダ
ということを盾に、簡単に説明することを拒否している場合が
多い気がする。
筋立てて、デリダの思想を概観できたという意味ではよかったと思う。
ただし、なんとなくいいたいことはわかったが、だからなんなんだというのは、いくら読んだところで同じ。これはデリダだからなのか。
デリダと現象学 というポイントが一番わかりやすいとこと思う。
デリダと文学 というところは、興味深く面白そうなところだけど
デリダが参照しているテキストを読んでいないと
いけないので、敷居は高い気がする。
デリダとジョイスとかかなり高級なレベルと思われます。
『ベンヤミン』
- 作者: ハワードケイギル,リチャードアピニャネジ,アレックスコールズ,Howard Caygill,Richard Appignanesi,Alex Coles,久保哲司
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 文庫
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デリダもそうだが、ベンヤミンも領域が広範で、また師弟関係や、思想的な系譜にうまく当てはめることが困難な思想家というものは、
〜〜というあり方、思想を批判した。
と定義されるところが多く、積極的な部分がなかなか見えずらい。
ベンヤミンの仕事自体が、一環した同じテーマを追求し、掘り下げるということが明に語られていないので、確かに同じことを求めているのだろうけど、いろんなところから議論が差し込まれるので、見えそうで見えない中心を、なんとはなしにとらえる、といった印象が強い。
うまく言えないけど、歴史のスポットライトにあたったところの脇にあり(あった)ものを拾い上げ、そこから批判を繰り出すスタイルによって、はっきりいって、そもそもベンヤミンは何がしたかったのか、よくわからない。
そこを知らないと意味ないのだけれど、入門書をざざざと読んだので、わかっていない。そういう観点でもう一度、見直さないといけない。